私は初めてみた光を覚えていない
祖父が寝たきりになり、亡くなるまでの2年間、その目をずっと撮っていた。
会話もできなくなっていく祖父との、私なりの対話の手段だった。
最期のほうは、いつ死んでもいいとつぶやき、何か解放されたように見える祖父の目は、
ただ光を映すだけの美しいものとなり、何も見ようとはしていなかった。
終わりに向かう祖父の目を見ながら、ふと初めて光を見る赤子の目を見たいと思うようになった。
それから私は20名以上の出産に立ち会い、赤子の目を撮り続けている。
生まれてすぐに目を開け、ほとんど光しか感じていないであろうその目は、
それでも必死に何かを見ようとしている。
覚えてはいないが、自分にも生きるためだけに目を開けた瞬間があったのだろう。
いつか何も見えなくなるときはきっとくる。
その時がくるまで、私は新しい光を見たい。
井上佐由紀
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
写真集「私は初めて見た光を覚えていない」を下記のサイトにてオンライン販売しております。
nap gallery online shop